2000年前に成立されたとされるヨーガの根本経典ヨーガスートラ。この経典の中には私達の生活を、より幸せに過ごす為の教えが記されています。
経典の中に「否定的想念によって撹乱された時は、反対の肯定的想念が捻想されるべきである。これがプラティーパクシャ・バーヴァナである。」と記されています。
この世界に存在する全ての物事には必ず闇(否定的な側面)と光(肯定的な側面)と言う二面性が存在します。
私達は自分の望んでいる出来事の時には、簡単に光を見い出す事が出来ますが、ひとたび望まない現実が差し出された時は、目の前が真っ暗に見えて闇の側面ばかりが際立ってしまう事が多いのではないでしょうか。
例えば、最高と思える様なケーキにも、甘くて美味しいといった光の面と高カロリーという闇の面を持っています。せっかくの美味しいケーキも闇の側面ばかりを気にして食べると味気無い物になってしまうでしょう。
最悪と思えるような出来事が起こった時、闇の側面に惑わされる事無く、必ず存在する光の側面を見つけ出す事で、毎日をどんな時でもポジティブで、光に満ちた物に変える事が出来ると経典では説いています。
私は小学生の頃から野球少年でした。当時、野茂英雄投手の活躍でアメリカのメジャーリーグが日本でもテレビで放送される様になっていました。
ある日テレビでメジャーリーグを観ていた時、私はテレビに映し出される一人のピッチャーに衝撃を受けました。その選手の名前はジム・アボットさんと言います。何が衝撃だったかと言うとマウンドに立つ彼の右手首から先が無いのです。
彼はグローブを右手首の上に乗せ、左手でボールを投げ、すぐさま左手でグローブをはめ守備に付く、そして強打者達を次から次へと打ち取っていく...野球少年だった私は、そんな彼のプレイに釘付けになりました。私も彼のように凄い野球選手になりたいと毎日練習に明け暮れたのを覚えています。
ジム・アボット選手は生まれつき右手がありませんでした。
幼い頃、野球に興味を持ち地元の野球チームに入りました。しかし回りの皆が「右手の無いお前に野球なんて出来る訳がない!」と、ジムをからかったそうです。
悔しくて泣いて家に帰り母親に尋ねました。
「お母さん、僕は右手が無いから野球が出来ないの?」
するとジムの母親は「ジム、お前は右手が無いのをハンデだと思うのかい?右手が無いのはお前の個性だから、個性を生かして練習すれば立派な野球選手になれるよ。」と答えました。
それからのジムは母親の言葉通り個性を活かし野球の練習に明け暮れます。そして地元の野球チームへと入団しました。
高校、大学と野球で大活躍した後、誰もが憧れる夢の舞台、メジャーリーグへと活躍の場所を移し大活躍をするのです。
メジャーリーグの名門チーム、ニューヨークヤンキースへと入団したジムは、その年にノーヒットノーランを達成し、伝説の投手ジム・アボットとして人々の記憶に今なお焼きついています。
もしも、自分の右手が生まれつき無かったら...右手が無いというハンデばかりが目に付き本当に自分のやりたい事を諦めてしまうのではないでしょうか。
私はヨガを始めた頃、周りは女性だらけで男性は自分ひとり...体も硬いし「男性である自分にヨガは向いていないのではないか?」とネガティブな事ばかり考えていました。
しかしある日、ヨーガスートラを読んでいる時に気付かされました。男性である事は特別な個性ではないか!ハンデに感じる事は何も無いんだと。
今では、男性特有のダイナミックさと力強さを取り入れながら、日々のヨーガの鍛錬と指導に取り組み続けています。
全ての物事は、私達の捉え方しだいで様々な色に変化していきます。闇の側面ばかりを見つめていれば真っ黒な暗い世界が広がってきます。ですがどんな時でも光の側面を見つける事が出来れば、私達はいつでも明るい光に満ちた生活を送れる事でしょう。
私達もジムの母親の様にどんな時でも物事を肯定的に捉える冷静さと、そしてジムの様に決して否定的側面に惑わされない前向きさを手に入れたいものです。