古くインドで使われていたパーリ語、その中に「アニッチャ」という言葉があります。
「アニッチャ」とは「無常」と訳すことが出来ます。私達の目の前に広がるこの世界全ては常に流動変化をし続けて、一瞬たりとも同じ状態を保ち続けることが出来ない、つまりは常が無いという事を意味します。
サーフィンで海にいる時、このアニッチャを非常に感じる事が出来ます。波というのは常に流動変化をしていて、その季節や天候、時間によって波の大きさも違えば、厚さや、スピード、波の崩れ方まで全てが変化していきます。さっきまで荒れ狂っていた海が数時間後には風が止み、まるで湖の様な静けさに変化していたりします。それが良い波であれ悪い波であれ、あの時、あの海で出会ったあの波にはもう二度と出会うことは出来ないのです。そしてサーファーたちは目の前の波にやり残しが無い様、そして悔いが残らない様、目の前の波に全力でトライし、その瞬間を楽しみ続けるのです。
私達の多くは、このアニッチャという普遍的な真理を知ってはいるけれど忘れてしまいがちだったりするのではないでしょうか。辛く悲しい時、その悲しみが永遠に続くかの様に肩を落としたり...。今、目の前に差し出されている幸せをいつまでも続くと考え、有難みを感じずに当たり前の様に過ごしたり。
私には産まれて3ヶ月になる息子がいます。男でも子育てに積極的に取り組もうと、オムツ交換やお風呂、洗濯や寝かしつけの抱っこなど日々挑戦しています。ですが、何をやっても泣き止まない時があり、もしも私に母乳が出たら...なんて思った事もあります(笑)。
夜赤ちゃんがぐずり始め、オムツをみると、おしっこをしているのでオムツを換えます。すると今度はすごい勢いで大をします。慌ててオムツを換えるとまたおしっこ・・・そんな事が毎晩の様に繰り返されると、次第にオムツを換えるた度に「も~またオムツか~!何でこの子はおしっことウンチを寝る前にしてくれないんだ!!」と不満が溜まってきます。これがこの先ずっと続いたらどうしようとか、「これじゃあ夜も寝れないし寝不足になってしまう」と不安に感じたり...。
そんな楽しくも忙しい日々もあっという間に3ヶ月が過ぎました。無事にすくすくと成長し1日1日、表情が豊かになってきました。その成長スピードはとても速く、毎日新たな成長を発見出来るほどです。ある休日、朝起きて息子を抱っこし、「おはよう」と話しかけるといつも特別な反応はなかったのですが、私の顔を見て初めて微笑んでくれました。昨日までは見られなかった成長を目の当たりにし、大変驚きました。同時に、息子の毎日何かしらの変化と成長が嬉しいのだけれど、少し寂しいような気持ちになり、現実は常に流動し変化してるんだなと、アニッチャ、常が無い事を再認識する事が出来ました。
そしてこの先、私はこの子のオムツをいったい何度換えてあげることが出来るのか?あと何度抱っこしてあげる事が出来るのか?常は無いですからすぐにこの子は成長していき、それも必要が無くなっていく時期がやってくるでしょう。そう思った瞬間から苦手だったオムツ換えも大切な時間に変わっていき、腕が痛くなるほど辛かった寝かしつけの抱っこもその一回一回を大切に楽しめるようになりました。
私達の一生というのは永遠のように長く感じますが、宇宙の長い歴史の中では瞬き程の一瞬でしかありません。その一瞬の中でも万物は常に流動変化していきます。私達の目の前に差し出される現実が、自分の望んでいる事、望んでいない事だとしてもそれは神様から与えられた最高の時間です。そしてこれから先、決して同じ時間は訪れません。
もう二度と出会えないであろう波を、全身で楽しむサーファーの様に、アニッチャをいつでも心の片隅に、目の前に差し出される様々な人生の波を思う存分、楽しんで乗りこなしていきましょう!