足りなかった小銭

その昔、ある学者と妻が男の子を授かりました。その男の子は母親の胎内にいる時に、学者である父親の間違いを指摘したため父親に呪いをかけられてしまいます、そして男の子は手足がねじれ曲がった状態で生まれてきました。その子の名前は八つの箇所がねじ曲がったという意味で「アシュタバクラ」と名づけられました。

才能豊かに成長したアシュタバクラは、王様の相談役として城に仕えました。王様は困った時にアシュタバクラに相談をします、するとアシュタバクラは決まってこう答えます「王様、心配は要りません、それは王様にとって最高の出来事です」。


ある日、王様が手に怪我をしてしまいました、王様はその事をアシュタバクラに相談するといつもの通り「心配要りません、それは王様にとって最高の出来事です」と答えました。それを聞いた王様は怪我をした事を最高とは何事だ!!と怒りアシュタバクラを牢屋に入れてしまいました。


ある日、王様は狩りに出かけました。狩りの途中山奥で、原住民にこれから行う儀式の生贄として捕まってしまいました。儀式が始まろうとした時、原住民は王様が手に怪我をしている事に気が付きました。怪我をしている者は穢れているので生贄には出来ないと王様は釈放をされました。王様は気付きました、アシュタバクラの言ったとおり手に怪我を負った事は最高の出来事だった事に、そして王様はアシュタバクラが言った言葉の意味をようやく理解出来たのでした。


王様は急いで城に戻り、アシュタバクラに謝りました。するとアシュタバクラは答えました「王様、心配は要りません、それは私にとって最高の出来事です」。

「もしも王様が私を牢屋に入れていなければ、私も一緒に狩りに出かけ怪我をしていない私が生贄になっていた事でしょう。ですから私にとって牢屋に閉じ込められたのは最高の出来事だったのです。」


この話は、昔からインドに伝わる昔話です。

私達の多くは、自分の望む事が目の前で起これば最高、そして望まないことが起これば最悪と区別をしてしまいがちですが、(今差し出されている、どんな最悪な出来事もその先起こるであろう最高の出来事に繋がっている可能性があります。)

アシュタバクラの言葉の通り、今現在望んでいない出来事が差し出されたとしても、その出来事が時間が経つと最高の出来事になる可能性に続いているのならば、私達にとって最高の出来事しか起こらないのかもしれません。

私は毎年家族で大田区花火大会を観に行くのですが、川崎の方から見るとそんなに混雑していなくて秘密にしたいくらいの穴場で、本当におススメの花火大会です。去年の夏は、妻の友人も来るとの事で、最前列の見晴らしの良い席を確保しようと場所取りに行く事にしました。家を出る時、家族みんなが出払っており、その当時犬を飼ったばかりで、家に犬ひとりぼっちは可哀想だと、夏の暑い時間帯でしたが車に乗せ、家を出ました。

近くのコインパーキングに車を止め、早めに来た甲斐もあっていい席を確保出来ました。場所取りの任務を終え、綺麗な花火を思う存分堪能できると心躍らせていましたが、真夏の炎天下に犬を連れ出してしまい、愛犬は相当暑がっているので、良い場所が取れた嬉しさで足取り軽やかに、ですが急いでパーキングに戻りました。料金メーターを見ると200円と表示されているので、財布を見ると1万円札しかなく小銭も持ち合わせていませんでした。大きなお札や1円玉は受け付けないメーターなので、両替をしなければいけませんが、回りには両替できそうなお店は見当たりません。夏の炎天下、愛犬のパグはのどが渇いたから水をおくれと息遣いが激しく訴えてきます。どうにかしなければと、1円玉と10円玉でなんとかかき集めた小銭を通行人の方に事情を話して両替してもらいました。これで家に帰れると、料金を払おうとした瞬間、料金メーターがあがってしまいました。「最悪だ!あと数秒早かったら」と私は、目の前に差し出されたこの状況にショックでしばらくの間、放心状態になってしまいました...。すると愛犬はまるで「もう暑さ限界、頼むから水を!!!」という目で鳴き始めました。私は今にも暑さで倒れてしまいそうな愛犬を抱え走ってコンビニを見つけました。無事にミネラルウォーターを入手でき、愛犬の命を繋ぐ事が出来ました。おかげで両替も出来たので、パーキングの料金を払い、帰路につきました。


しばらく車を走らせていると渋滞に巻き込まれました。しばらく経っても車は進まず、渋滞の列にはまってしまった為後戻りもできません。その時に隣でスヤスヤと眠る愛犬の姿を見て気付かされました。パーキングで料金を払えなかった事が最高の出来事だったと...。もしもあの時、コンビニで水を買わずに帰っていたら、愛犬はのどがカラカラの状態で渋滞にはまり、車で苦しい思いをして私も気が気ではなかったでしょう。その夜は家族と友人達とこの話で盛り上がりながら、花火を楽しみました。一見最悪と思えるような出来事も、最高の出来事の始まりなんだなと最高の花火と共に、味わう事が出来ました。


自分の望まない事が差し出された時、表面上だけを見て歩みを止めてしまう前に、心の中のアシュタバクラに聞いてみてください。

「心配はいりません。それはあなたにとって最高の出来事です。」


全てが最高の瞬間である事をいつでも忘れず、最高の宝物が差し出されている事に気づける自分で居たいものです。

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